一般社団法人 国際交流サービス協会

IHCSA主催「定例講演会」を開催しました

平成30年6月11日(月)、六本木の国際文化会館において、当協会主催「定例講演会」を開催し、100名以上の方々にご参加いただきました。

今回は、現在あらゆる分野での応用が期待されその言葉を聞かない日がない「AI(人工知能)」について、日本でトップクラスの人工知能研究者である松尾豊東京大学大学院准教授に、『人工知能(AI)は人間を超えるか~AIの爆発的進化による社会の変化と日本の未来~』というテーマでご講演いただきました。

講演概要を以下にまとめました。

**********************************************

AIは過去に2回のブームがあり、1956年から60年代までの第1次ブームは「考えるのが早いAI」、80年代の第2次ブームでは「ものしりなAI」が注目を浴びたが、人間であれば子供にも備わっている認識能力がなく、人間がプログラムできないことは出来なかった。しかし2013年からの第3次AIブームでは「子供が環境を認識して学習する」ように、ディープラーニングという画期的な方法で、AIが周りの環境を認識し、適応的な行動を取れるようになった。この1点が大きな違いである。

2012年に行われたAIの世界的な画像認識のコンペティションで、ディープラーニングを使ったAIが大差をつけて勝利して以来、2017年には人間の画像認識能力を遥かに超えるまでになった。これはカンブリア紀に目を持った生物が爆発的に進化した歴史と比較でき、AIの大きな進歩が期待される。

既に海外では医療画像、監視カメラなど画像認識の分野で、激しい開発競争が始まっており、日本は出遅れている。今後機械・ロボットのカンブリア爆発(目を持った、認識能力のある製品の爆発的増加)が予想され、日本はモノづくりの力を活かした戦略が非常に重要である。

これまでは機械が認識能力を持たなかったため人の介在が必要だった産業分野が、今後急速に自動化される。例えば多くのマンパワーが必要な、農業、建設業、外食産業などの自動化が急速に進むが、日本はこれらの分野の機械製造において、世界規模の企業を有している。また家電やロボットにおいても、日本は優れた技術を有しており、話題になることが多い自動運転分野だけでなく、その他の製造業でも、ディープラーニングによる眼のある機械の開発・製造に注力すべきである。

ディープラーニングはまだ日の浅い研究分野であり、研究者の年齢も非常に若い。その若い研究者をGoogleやFacebookなどが高額な年収で奪い合い、中国のIT企業も急速に人材集めを始めている。日本の大企業は意思決定が遅く、未だ年功序列に縛られているため、世界のスピード感に追いついていない。ただし、モノづくりは一朝一夕に真似できるものではなく、AIの応用分野はこれまでのITと違い現場を持っている企業が有利なので、日本が今、目を覚ませばまだ間に合う。

ディープラーニングは、日本の産業競争力復活の切り札となりうるが、その為には経営者のスピード感ある意思決定、人材への投資、そしてこの新しい知識の習得が喫緊の課題である。

AIが発達すると仕事がなくなると心配する人がいる。確かに「生産」と「仕事」は今以上に乖離するが、新しい価値基準ができ、社会の再配分が起こる。つまり新しい仕事ができる。人間の仕事は、人間同士のコミュニケーションに関わるものや、創造性を発揮するものなどになっていくだろう。

**********************************************

講演会終了後のアンケートでは、「人工知能の本来の目的等を知ることができてとてもためになりました。メディアでももっと紹介すべき内容と思いました」、「私たちの近未来の社会、生活、働き方などにも、密接に関係するお話しを聞くことが出来、非常に興味深かったです」、「このような話が日本の経営者の間にも伝わって、日本の産業や経済の発展につながってほしいものです」などの感想が寄せられました。

【松尾 豊氏プロフィール】

  • 1975年香川県坂出市生まれ。
  • 1997年 東京大学工学部電子情報工学科卒業。
  • 2002年 同大学院博士課程修了。博士(工学)。
  • 同年より、産業技術総合研究所研究員。
  • 2005年より、スタンフォード大学客員研究員。
  • 2007年より、東京大学大学院工学系研究科 技術経営戦略学専攻准教授。
  • 2014年より、東京大学 グローバル消費インテリジェンス寄付講座      共同代表・特任准教授。
  • 2015年より、産総研AIセンター企画チーム長。
  • 2017年より、日本ディープラーニング協会設立。理事長。
  • 専門分野
  • 人工知能、ディープラーニング、ウェブマイニング。
  • 受賞歴
  • 人工知能学会からは論文賞(2002年)、創立20周年記念事業賞(2006年)、現場イノベーション賞(2011年)、功労賞(2013年)の各賞を受賞。
  • 人工知能学会に於ける役職
  • 学生編集委員を経て、2010年から副編集委員長、2012年から編集委員長・理事。2014年より2018年6月まで倫理委員長。
  • 著書
  • 「人工知能は人間を超えるか -ディープラーニングの先にあるもの」
  • *学術書として「大川出版賞」を受賞するとともに、産業界への貢献も評価され「ビジネス本大賞 審査員特別賞」も受賞。
Copyright(c) 2024 IHCSA All Rights Reserved